「なんとなく元気がない」愛猫の不調を見逃していませんか?
「いつもよりじっとしているけれど、どこか痛いの?」「鳴き声もあげないし、ただ眠いだけ?」と判断がつかず不安になった経験はありませんか。
猫は過酷な野生の生存競争において、弱みを見せると捕食者や縄張りのライバルに狙われるため、「痛みや体調不良を極限まで隠す」という強い本能を持っています。そのため、飼い主が気づいたときには病気やケガが深刻化しているケースも少なくありません。
しかし、どれほど隠そうとしても「顔の筋肉のわずかな強張り」までは隠せません。本記事では、世界基準の疼痛評価ツール「フェイシャル・グライマス・スケール(FGS)」に基づき、自宅で愛猫の痛みを科学的に見分ける方法を解説します。
なぜ猫は痛みを隠すのか?科学的に解き明かすメカニズム
結論:捕食を免れるための防衛本能により声を上げない一方、痛覚刺激による自律神経の緊張が顔面筋(表情)に直結して表れるからです。
猫が痛覚を感じると、交感神経系の興奮やストレスホルモン(コルチゾール等)の分泌に伴い、無意識のうちに特定の表情筋が収縮します。カナダのモントリオール大学獣医学部はこの生理反応を体系化し、フェイシャル・グライマス・スケール(Feline Grimace Scale: FGS)と呼ばれる客観的評価システムを開発・検証しました。

FGSによる猫の顔面表情変化(0〜2点). 出典: ResearchGate
FGSでは、以下の5つのアクションユニット(顔の部位)を観察します。
- 耳の位置(前を向いているか、横に倒れているか)
- 目の開き具合(パッチリ開いているか、細めているか)
- マズル(口吻部)の緊張(丸く弛緩しているか、楕円に引き攣れているか)
- ヒゲの向き(緩やかに垂れているか、前方に突き出しているか)
- 頭の位置(肩より上にあるか、肩のラインより低くうなだれているか)
【エビデンスメモ】
モントリオール大学の臨床研究(Evangelista et al., 2019)において、FGSは急性の痛みを持つ猫と健康な猫を高精度で識別できることが立証されました。合計10点満点のうち**「4点以上(スコア全体の0.39超)」**を記録した場合、獣医学的な鎮痛治療(医療介入)が必要であると判定されています。
飼い主が注意すべきサイン・やってはいけないNG行動
痛みのサインを誤認したり、自己判断で対処すると命に関わるリスクがあります。
| やってはいけないNG行動 | 獣医学的リスク |
| 「鳴かないから大丈夫」と放置する | 猫は骨折や激しい腹痛でも滅多に鳴かず、病変の発見が致命的に遅れる |
| 人間用の痛み止めを自己判断で与える | アセトアミノフェン等は猫の肝臓で代謝できず、中毒死を引き起こす |
| 痛がっている部位を無理に触って確認する | 激痛によるパニックから攻撃行動を誘発し、患部を悪化させる |
要チェック:表情以外の疼痛シグナル
- 香箱座りの姿勢から動かず、お腹を床に押し付けるように丸まる
- ブラッシングや特定部位への接触を急に嫌がって噛みつく
- 毛づくろいの極端な減少(被毛のパサつき)または患部の一点舐め(脱毛)
今日からできる!FGSを用いた「自宅チェック3ステップ」
愛猫が安静にしているタイミング(睡眠直後や食事中を除く)で、刺激を与えずに30秒ほど静かに観察します。
- ステップ1:5つのパーツを0〜2点で採点する
- 0点(痛みなし):耳は前向き/目は開いている/マズルは丸い/ヒゲは湾曲/頭は肩より上
- 1点(中等度の痛み):耳がやや外側に開く/半目/マズルがやや平坦/ヒゲがやや直線的/頭が肩の高さ
- 2点(顕著な痛み):耳が平らに横倒し/目を強く細める/マズルが横に張る/ヒゲがピンと広がる/頭が肩より下に沈む
- ステップ2:合計スコアを算出する(10点満点)
- 各パーツ(0〜2点)の数値を合計します。
- ※片方の目や耳に外傷がある場合は、その部位を除外して残りの部位で比率を計算します。
- ステップ3:スコアに応じたアクションをとる
- 0〜3点:現状は平穏。定期的な健康観察を継続します。
- 4点以上:鎮痛が必要なレベルの不調を抱えている可能性大。メモや写真を撮影し、速やかに動物病院を受診してください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 眠いときの「細目」と、痛覚による「細目」はどう見分ければよいですか?
A1. 「周囲の音への反応」と「他のパーツの緊張」で見分けます。眠いだけのときは耳やマズルの筋肉が緩んでおり、名前を呼ぶとパッと目を開けます。痛みがある場合は、音に反応しても目は細めたままで、耳が横に倒れ、口元が緊張して引き攣れています。
Q2. 慢性的な関節炎や内臓疾患の痛みもFGSで分かりますか?
A2. FGSは主に急性疼痛(手術後や外傷、急性腹症など)で厳密に検証されていますが、慢性関節炎や口内炎の増悪期にも同様の表情変化が現れます。シニア猫の動きが鈍くなった際にも、FGSの基準で表情をチェックすることは非常に有効です。
まとめ
猫は不調を隠す達人ですが、顔の筋肉は嘘をつきません。
- 鳴き声ではなく「耳・目・マズル・ヒゲ・頭の位置」の強張りを見る
- モントリオール大学のFGSスコアで「4点以上」は受診の目安
- 違和感を覚えたら自己判断せず、写真を撮って獣医師に相談する
日頃から愛猫のリラックスした「いつもの顔」をよく知っておくことが、隠れた痛みを早期に救い出す最大の鍵となります。

▼参考文献・出典リンク
[Université de Montréal / 2019] Feline Grimace Scale: Development and Validation.
[Evangelista, M. C., et al. / 2019] Facial expressions of pain in cats: the development and validation of a Feline Grimace Scale. Scientific Reports, 9, 19128.

[AAHA & AAFP / 2022] 2022 AAFP/AAHA Feline Pain Management Guidelines. Journal of Feline Medicine and Surgery, 24(7), 611–640.


